The Endless Chain (from The Media Monopoly)
著者紹介
書籍情報
初出
日本語訳
書名:メディアの支配者 : 米マスコミ界を独占する50の企業
訳者:藤竹 暁
出版社:サイマル出版会
出版年:1984年(1983)説あり
ISBN:9784377302585
Introduction
新しいメディアは一見、個人を解放するように見えるが、実際には旧来の巨大メディアと統合され、同じ資本構造に組み込まれている。バグディキアンは『The Media Monopoly』で、メディア支配企業が1983年の50社から2000年には6社にまで集中したと指摘している。AOLタイムワーナーのようなアメリカの巨大IT企業同士の合併はその象徴である。彼の警告通り、新しい技術も資本の力に吸収され、情報発信の自由が制限されつつある。 本文
アメリカで最も信頼されている「ボルチモア・サン」新聞の第1版にて報じられていた「サム・スミスー今こそ戦いのとき」というジョンズ・ホプキンズ病院に関する記事が何者かの命令によって消されてしまった。 この記事はジョンズ・ホプキンズ病院の理事に忖度して消されたのかもしれない。なぜなら理事は「ボルチモア・サン」の重役であり、かつ、「ボルチモア・サン」の株式の6割を保有する銀行の取締役であったからだ。「コロンビア・ジャーナリズム・レビュー」は、この件について「理事から圧力をかけられたことが事実ではないにしろ、編集局のトップが忖度して記事をカットしたことは明らかだ。この事件は巨大複合企業がニュース・メディアを所有することの危険性を教えてくれた。」と述べている。 事件が起きた1969年ごろからアメリカでのメディア支配がじわじわ始まり、1980年代にはほとんどのメディアが50の企業に吸収されてしまった。他分野の企業同士が結合され、サム・スミス事件のように記事が消される可能性がアメリカ社会全体に広がった。 2:全産業によるメディア支配
アメリカでは一部の巨大企業が新聞・テレビ・雑誌・ラジオなど主要メディアを所有・支配しており、その結果、情報の偏りが生じている。メディアは世論や政府政策に大きな影響力を持つが、産業界と同じ企業に属しているため、企業利益が優先され、市民が公正で多様な情報を得にくくなっている。
多くのメディア大企業はほぼすべての産業分野や海外投資とも関係を持ち、産業界との結びつきを強めることで利害の衝突の危険性が高まっている。また、経営側は幹部の交代などを通じて報道内容に介入し、自分たちに都合のよいニュースだけを流そうとする場合もある。
完全な独占ではなく小規模な競争相手も存在するが、その声は1980年代以降、大企業の圧倒的な影響力にかき消されつつある。内部で抵抗する動きもあるものの、企業側の意向が強ければ無力になりやすく、大企業の利益が必ずしも社会全体の幸福につながるわけではない、という問題が指摘されている。
3:メディア界を牛耳る50の企業
大企業50社の中でもCBSやウェスティングハウス・エレクトリック・カンパニーはよく知られている。しかしメディア会社と比べて親会社の名前は馴染みがなく、あまり知られていないのが大半だ。メディアを支配する大企業50社自体も、時によって入れ代わりが発生する。これは、企業がメディア会社の財産や株式の売買によって、会社をコントロールできる企業が変わるからだ。 例として、企業にとって主要産業が不振の際に、マスコミ株をより大きな企業に売却することがある。その結果、今ではアメリカの主なメディアを支配する大企業の数は50よりももっと少なくなっている。
以下に、1980〜81年にかけて作成された、メディアを支配している50の大企業のリストを挙げる。()内は、その企業が所持するメディア名である。
カウルズ・メディア・カンパニーCowles MediaCo. ダブルデイ&カンパニーDoubleday & Co. ハースト・コーポレーションHearst Corp. ナイト=リッダー・ニュースペーパーズ(フィラデルフィア・インクワイアラー、マイアミ・ヘラルド)Knight-Ridder Newspapers (Philadelphia Inquirer, Miami Herald) トリビューン・カンパニー(シカゴ・トリビューン、ニューヨーク・デイリー・ニュース)Tribune Company (Chicago Tribune, New York Daily News) 4:日刊紙を支配する20の企業
現在アメリカで発行される新聞の半数以上を20の新聞社が占めていて、こういったインフォメーションパワー(情報力)の不平等が起こっている。この現象は新聞だけにはとどまらず他のメディアでも見られる。1900年と1980年で比べると、1980年の方が新聞社一社ごとの規模が大きくなっている。アメリカで発行されている日刊紙を支配する20の企業は以下の表のとおりである。
順位, 所有企業名, 一日の総発行部数, 日刊紙数
1, ガネット・ニュースペーパーズ, 3,750,000部, 88 11, カウルズ・ニュースペーパーズ, 1,260,000部, 53 5:雑誌総売上げの半分を占める出版社
雑誌におけるメディア支配は日刊紙よりも強いものになっている。アメリカには1万830種の雑誌が発行されていて、その総売上げは120億ドルにものぼるが、その半分を20の企業が占めている。以下に、その20の企業を挙げる。
6:テレビ界を支配する3大ネットワーク
アメリカの放送分野でも大企業による支配が進んでおり、総世帯の約98%が三大ネットワーク(ABC・CBS・NBC)のテレビを視聴している。これら三大ネットワークは、1980年時点でテレビ放送収入の半数以上を独占し、非常に強い影響力を持っている。 ラジオ業界では正確な支配構造の把握は難しいものの、聴取率調査や投融資額の推計から、10の大企業がラジオ聴取者の半数以上を占めていると考えられる。1982年の通信法により1社が所有できるラジオ局数は制限されたが、規模の大きな局を集中して所有しているため、実質的な支配は依然として続いている。 7:書籍売り上げの半分を独占する11社
書籍は多岐にわたる展開がされていて、2500社が3万4000種の書籍を発売している。しかしこれも結局11の大企業が70億ドルの書籍総売上げの半分以上を占めている。書籍売り上げの半分を独占している11の親企業の名前を列記すると、以下のようになる。
8:大衆本の売上げ上位10社
大衆本は他の産業分野に強い関心を持つ多数の企業によって支配されている。ノレッジインダストリーズによれば、1980年における大衆本の売上げ順位は、以下の通りである。
大衆向けの「ペーパーバックス」はドラッグストアやスーパーマーケットなどで売られており、他のどのタイプの書籍よりも多くの部数を売っている。以下に、ペーパーバックスの大手オーナー企業10社を挙げる。 九位 MCAインコーポレイテッドパークレイ/シュウヴ) 教科書もまた書籍産業の大きな柱だ。このマーケットを支配しているのは以下の企業である。
しかし、書籍ビジネスは、販売促進やブランド戦略といった大企業の一般的なビジネス手法が通用しにくく、安定した利益を生みにくいため、投資対象としては期待通りの成果を上げられない分野である。さらに、巨大企業傘下の出版社では、デザイナーや宣伝担当者の影響力が強まる一方で編集者の地位が低下し、株式市場を意識した利益優先の出版方針が進んだ結果、本づくりの丁寧さが失われつつある。
映画産業の世界においても、全ての映画が8もしくは9のスタジオで作られており、スタジオの数もハリウッドの金の流れ次第で変わっている。以下に挙げる4のスタジオが、全映画産業の半分以上の収入を占めている。
9: 21の超大企業
アメリカでは、複数のメディアを横断して影響力を持つ主要メディア企業はわずか約50社に限られている。これらの巨大企業は、新聞や出版にとどまらず、映画・テレビ・音楽・ケーブルTVなど多様なメディア分野へ進出し、少数企業によるメディア集中が進んでいる。
このように限られたメディア大企業が国民の意識に強い影響力を持つことは、民主主義社会にとって大きな危険をはらんでいる。さらに、アメリカには36万社の企業が存在するが、そのうち1%未満の500社が総売上の大半を支配しており、メディア企業も合併を通じてこの経済的エリート層に組み込まれてきた。実際、かつては少数だった大企業メディアは急増し、現在ではトップ企業群の中で重要な地位を占めるようになっている。
500の超大企業、かつ、50のメディア大企業である21社は、以下の通りである。
10:兼任役員ー終わりなき連鎖
アメリカでは、親会社が傘下メディアのトップ人事を掌握することで強い支配力を行使しており、メディアの独立性は形式的なものにとどまっている。多くの新聞・雑誌・放送・出版・映画会社が大企業の傘下に入り、さらに企業幹部が複数企業の役員を兼任することで、メディアと産業界が横断的に結びついている。
こうした兼任役員制度は、企業間の利害調整を可能にし、報道の中立性を損なうだけでなく、競合企業同士の独立性さえ形骸化させている。実際、多くの主要企業が重役の兼任によって結合関係を持っており、この連鎖的なメディア支配構造は「終わりなき連鎖」と呼ばれる。メディアの大規模化・全国化が進んだ結果、その影響は社会全体、さらには世界規模にまで及んでいる。 11:メディア会社の役員会を支配する企業
実際にニューヨーク・タイムズでは、自動車メーカー・フォードとの関係を背景に、環境規制に反対する企業側の主張が広く報道される結果となった。このように1980年代のアメリカでは、多くの大企業がメディア企業の役員会を通じて報道内容に影響力を持つ構造が形成されていた。 12:企業権力の見えざる手
アメリカでは、銀行・保険会社・投資機関といった巨大金融資本が、役員派遣や株式の議決権を通じてメディア会社を強く支配している。株主の実態は法律によって不透明化されており、金融機関は見えにくい形でメディア経営に介入できる構造になっている。
さらに、メディア企業同士、主要産業、超大企業、金融機関が相互に結びつき、支配と被支配が重なり合う多重構造が形成されている。実際、主要放送局も巨大金融機関の影響下にあり、著者はこうした状況を、巨大資本が社会問題や経済の方向性だけでなく、主要メディアを実質的に完全支配している深刻な問題として指摘している。